『家族八景』 筒井康隆 著

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

人の心を読むテレパス(精神感応能力者)である火田七瀬を介して、八つの家族の内面を抉る。
七瀬を媒介者とすることで、多数の登場人物の外見と内面の落差を効率良く描くことに成功している。小説というものは大なり小なり登場人物の内面を読者に開示するものだから、そもそも小説を読むことは擬似的に精神感応能力者の体験をすることに等しいのかも、などと思いつつ。
とはいえ、七瀬が単なる媒介者に留まらずにテレパスの能力をもって他者と相互作用する場面もあり、ここがやはり本作のおもしろさと言えそうである。例えば桐生勝美を追い込む場面(「水蜜桃」)や、二組の夫婦に不倫をけしかける話(「芝生は緑」)など。