『ジョーカー・ゲーム』 柳広司 著

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

陸軍スパイ養成学校―通称"D機関"―の所属員が非常にスタイリッシュに描かれている短編集。

「およそ心臓が動いている限りは、何とかして敵地を脱し、情報を持ち帰ることが、諸君に課せられた使命だ。そして、そのために必要なものは、無論、精神力や大和魂などといった訳のわからないものではない」

D機関は、スパイミッションを遂行するために、あらゆる事象を冷徹に評価して合理的な選択をしていく。この点、「精神力や大和魂」を頼む陸軍の憲兵隊とは対照的に描かれている。この対比の効果もあって、D機関が、自由な雰囲気を携えた魅力ある組織になっている。
そして、D機関を統率する結城中佐が、連作短編のキーとなるキャラクター。彼は、異能の所属員達をさらに遥かに凌駕する存在として描かれることにより、悪魔的な魅力を漂わせている。こういう風に相対的なポジショニングを重ねていくことで、その人物について詳細に書き込むことなく、キャラクターの特徴を際立たせていく手法がうまいと思った。
謎解きの氷解感はさほどではないものの、雰囲気がとても良い短編集だ。