『雷の季節の終わりに』 恒川光太郎 著

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

現世から隔離された異世界を舞台とするファンタジー長編(と呼びたい)。
主人公の少年、賢也が済む集落「穏」は、外の世界から閉ざされ孤立している。穏に隣り合うようにして、廃墟となった禁忌の集落「墓町」があり、穏と墓町とを繋ぐ門には、この世の者ではなくなった存在が、穏を目指してやってくる。賢也は、門を守る闇番の脇で彼らを眺めるのが習慣になっていった。あるとき、門に外の世界の人間がやってくる――
何か社会的なテーマを投影させている感じはあまりない。純粋に、「穏」という異世界の存在を描いたホラーファンタジーだ。
美しい筆致で異世界「穏」を現出させるとともに、穏と墓町とのコントラスト、現世と穏との対比、鬼衆の非道などを描き出すことで、幅広かつ奥行きのある幻想的物語になっていると思った。後半の英雄譚ぽい展開も、前半の伏線がうまく効いていて大変楽しめた。