『金正日の正体』 重村智計 著

金正日の正体 (講談社現代新書)

金正日の正体 (講談社現代新書)

金正日には4人のダブル(影武者)がいる。それだけでなく、今の金正日はダブルであり、本人は既に死亡している…。
そんな衝撃的な説を裏付ける証言やデータの数々を紹介した本である。決して、それらのデータから論理的に死亡説を裏付けて断言している訳ではない。その蓋然性が高いのではないか、と思わせる証拠がいくつも開示されている、そんな本である。判断は読者に任されている。
そのような判断が自分につくはずもなく、週刊誌の記事を読んだかのような読後感ではある。しかし、内容自体は濃い。著者以外では、こうした証言を集めること、ひいてはそれを書籍の形で世に出すことは難しいに違いない。その意味で貴重な一冊だと思う。
対象が対象だけに、ところどころ表現が曖昧になるが、それが直ちに本書の価値を下げることにはならない。崇高なジャーナリズム精神に則って、9割以上を占めると言われる北朝鮮からのデマ情報をかき分け、最大限に取材した結果を開示してくれたものが本書だろう。著者の現在の肩書きは大学教授だが、そこいらのジャーナリストよりは遥かに優れたジャーナリストであるように思う。例えば次の一節からそれが伺える。

真実を伝える勇気がないと、朝鮮総連北朝鮮に言われた通り書くしかない。これでは、ジャーナリスト放棄である。権力者や政治家、官僚の言うことに疑問を抱かないのは、ジャーナリストではない。ジャーナリストの使命は、国民に真実を伝え、報道の自由のために闘い、よりよき未来を作ることである。(p.4)

私は本書の情報を、著者にならって、次のようなスタンスで受け止めておくことにする。

だが、情報に惑わされ、踊らされてもいけない。
また、自分が知らない情報を、すぐに否定してもいけない。全ての情報は、疑いながら確認するのが、基本である。にわかに信じてもいけないが、直ちに否定してもいけない。(p.34)