『本の読み方 スロー・リーディングの実践』 平野啓一郎 著

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

著者は、ゆっくりと吟味しながら本を味わうことを提案している。なるほど、豊かな読書とは本来こういうものだと言われれば確かにその通りだと思う。
もちろん、このような読み方を存分に楽しむためには、読む本を選ぶ必要があるだろう。プロットで楽しませるような推理小説にはあまり向かないだろうし、情報を得るために読む例えばビジネス書などにも不向きだろう。やはり文学の類が良さそうだ。
さて、心に残ったのは次の一文である。

小説というのは、マジックミラーのようなものである。しっかりと目を凝らせば、向こう側に作者が見えるかもしれない。しかし同時に、そこに映し出された自分自身を見てしまうのかもしれない。(p.159)

小説を読む際、作者の意図を正しく理解することに気を取られがちだが、映し出された自分自身を見ることも含めてその作品の味わいなのだ。「映し出された自分自身」とは、「その小説について自分が感じている素直な印象」と言い換えてもいいだろうか。正解を得ることだけでなく、ぶっちゃけた自分の感想に気付くことも、小説から得られる立派な果実なということ。
文学小説は、感性のしなやかな若いうちに読まないと得るものが少ない、などという見方もあるかもしれないが、決してそうではないんだなと感じた。時とともにマジックミラーの透過率は変化し、向こうに見える像も、映し出される自分も、その時々で異なるはずである。文学は、大人には大人の収穫をもたらしてくれるに違いない。
ゆっくりといろいろ再読してみたくなった。