『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』 佐藤優 著

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

前半は、後に背任や偽計業務妨害の容疑で逮捕されることになる外交官時代の行動記録、後半は、取り調べでの西村検察官とのやり取りなど、逮捕後の記録になっている。著者のおかれている状況が特異かつスリリングなので、そのまま小説のようでもある。しかしそこいらの小説などより遥かに高レベルの知的背景が底に流れている。知的ハードボイルド、というジャンルがあるか知らないが、まさにそんな雰囲気である。
著者が学者やなんかと決定的に違うのは、シビアな環境下で行動を積み重ねていること、だろうか。

情報はデータベースに入力していてもあまり意味がなく、記憶にきちんと定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んだり、地方調査を進めても、上滑りした情報を得ることしかできず、実務の役に立たない。(文庫版p.241)

といったくだりを裏付けるように、その場の反射神経で情報源との信頼を深めたり情報を引き出したり、という場面がいくつも出てくる(それもロシア語で)。この辺はもう常人には想像もできない特殊技能の世界なんだろう。今後も執筆に力を入れていくそうで、こういう稀有な経験を著作の形で読めるということは、本好きにとっては素直に嬉しい。