『魔王』 伊坂幸太郎 著

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

主人公は、作中で起こる、群集の行動が統一されていく様子を、ファシズムと結びつけて危惧する。これに対して自らの特殊能力をどう使っていくかが、ストーリー上のキーになっている。
そのストーリーの裏で、著者の政治的な見解も一つ重要なテーマなんだろうと思いながら読んだが、どうもそうではないらしい。文庫版あとがきで明確に否定している(正直がっかりした)。
そうすると、ストーリーの裏にある主題は

考えろ、マクガイバー

かな。無自覚に群集に流される愚や怖さを説いている。常に考え、群集とは異なる行動を起こす勇気について説いている。ムッソリーニ逆さ吊りの際にスカートを直す勇気。
潤也(あるいは著者か)は、お金によって、群集の流れを変えること、あるいは流れを変えるために必要な勇気を創出することについて想起した、ということだろう。それも思考の一つの結果だし、別の人は別の思考により別の結論に至るはず。こうして各自が思考することで生まれる多様性を是とする。そういう価値観を提示しているように思う。