『私の男』 桜庭一樹 著

私の男

私の男

この禁忌の物語に感情移入して書き上げた作者のパワーには脱帽する。
しかし、葛藤の描写が微塵も見られないことで、設定の技巧に走ったミステリ風小説、あるいはファンタジー小説といった趣になってしまった。彼らを糾弾して「獣」と呼ぶ場面が出てくるのだが、むしろ獣以下の禁忌に足を踏み入れているという、人間でなければ持ち得ない葛藤もしくは狂的な部分で読ませて欲しかった。心理と行動が釣り合っていない。
直木賞選考で「神話性を持った作品」と評した委員がいたそうだが、賛辞というより、「架空の」の意味を多く含んでいたのだろうか。それなら「神話」も分かるのですが、すると今度はなぜ受賞したのかが分からなくなる。